姉にとって私はバイ菌

姉は私をバイ菌の様に扱った。

物心がついた時には、姉は私の触った物、例えばドアノブだとか水道の蛇口などはティッシュにくるまないと触る事が出来なかった。

 

姉の衣類の洗濯物を、母がたたんで茶の間のソファに置いてあるのを間違って私が指一本でも触れてしまおうものなら、姉はその衣類の出来るだけ少ない面積しか触れない様に細心の注意を払って指二本で持ち上げ、そのまま洗濯カゴに入れた。

私が触った物など洗わなければとてもじゃないけど身に付けられないほど汚い物だった様だから。

母はその事に対して何も言わなかった。

 

夕食の食卓でも睨まれてたし、私が姉の部屋にどうしても入らなくてはいけない状況が起こった時には、床に新聞紙で道を作られて、この新聞紙からはみ出ない様に歩いてと言われた。

ティッシュでくるむ事で乗り切れない物に触った時などは姉は何分にもわたって手を洗い続けていた。

 

2階に父と母の夫婦の寝室と、私と姉の寝室があった。

私が小学校高学年の時か中学1年の時に、家族4人全員がベッドに入って寝ようとしているタイミングでツバが気管の変なところに入って私はむせて咳き込んだ。

大抵の姉妹であれば姉が「大丈夫?水持ってこようか?」みたいな流れになる場面だと思う。

だけど私の身に起こった事は、姉が両足を力いっぱいドーン!、ドーン!と全体重をかけてベッドに踏み下ろして、「私の寝るのを邪魔するな、うるさい!」と言う様に無言で、足の打ち下ろす音だけで抗議してきたのだ。

当然、その時点で姉は十数年生きてきてるのだから、気管にツバが入ってむせる咳はコントロール出来ないのを知ってるはずなのに、彼女にしてみれば自分に取って迷惑でしかない事に対して抗議するのは自然な事だったのだろう。

だけどこの時ばかりは母が「やめなさい!」と両親の部屋から叱責したから姉は足を踏み下ろすのをやめた。

この迷惑な生き物のせいで私が怒られた!許せない!と益々憎しみを増幅しながら。

母がやめなさいと言ったのは私を思いやったりかばった訳ではなく、うるさいし家が傷むと思ったからだろうと思う。

 

私は家にいる時間が地獄だった。

学校にいる間が唯一呼吸の出来る場所、自分が自分で居られる場所だった。

同級生がロボットに見えたと言って学校に行かず毎日自宅で家族と一緒に居る子供が居るが、自分は居心地の良い家庭に生まれてラッキーだったと感謝こそすれど、家に帰りたくない環境の家庭に生まれた子達にとってはそこだけが唯一の居場所であるのだから、周りの人達の家庭環境も知らずにロボットに見えたなどと見下す赤ちゃん的価値観は卒業した方がいいんじゃないかと思う。

 

姉がおかしくても両親のどちらかがまともであれば姉の私に対する態度を注意するはずである。

でもその様なまともな価値観の家族に私は恵まれなかったのである。